「来週はテストだから、今日は一歩も外に出ずに部屋で勉強しよう」
「部活を引退して運動をやめた方が、勉強時間が増えて成績が上がるはずだ」
中学生なら、一度はこんな風に考えたことがあるかもしれない。
でも、もし君が「勉強のために運動時間をゼロにする」という作戦を立てているなら、少しもったいないことをしている。
最新の脳科学や認知心理学の研究データを見ると、適度な有酸素運動や筋トレを毎日の生活に組み込んだ方が、学習の効率がグッと上がることがわかっている。
そしてこの仕組みは、君たち中学生の勉強だけでなく、資格試験に挑む大人や、仕事の生産性を上げたいビジネスパーソンにも同じように当てはまる。
根性論ではなく、運動や筋トレがどのように脳の仕組みを変えるのか。
整理してみよう。
① 脳の接着剤「BDNF」が増えて、暗記がスムーズになる
運動が脳に与える一番大きな変化は、「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質がたくさん分泌されることだ。カリフォルニア大学などの研究で、早歩きやジョギングなどの有酸素運動をすると、このBDNFが増えることが確認されている。
BDNFは、例えるなら「新しい知識を脳に貼り付けるための強力な接着剤」だ。ただ机に座ってテキストを眺めるよりも、運動をして脳内に接着剤をたっぷり出してから暗記をした方が、記憶が脳にしっかりと定着しやすくなる。
ずっと部屋にこもって英単語帳をめくっているのに覚えられないときは、一度テキストを閉じて、家の周りを15分だけ早歩きで散歩してみよう。脳が活性化された状態で再び単語帳を開くと、スッと頭に入りやすくなっている。
税金の勉強やキャリアアップのための専門書を読む大人も同じだ。休日にずっとソファに座って本を読むより、街中にある赤いシェアサイクルなどを活用して意図的に心拍数を上げてから、カフェで資格勉強をはじめてみる。これが、大人が認知科学を応用してインプット効率を意識した戦略的な手法だ。
② 筋トレをすると、筋肉から「脳を育てるホルモン」が出る
ジョギングのような有酸素運動だけでなく、筋肉に負荷をかける「筋トレ」も脳に良い影響を与える。
実は、筋肉はただ体を動かすだけのパーツではない。筋トレなどで筋肉がグッと収縮すると、筋肉から「IGF-1」や「マイオカイン」と呼ばれる特別なホルモンが血液中に流れ出す。これが脳に届くと、先ほど説明した接着剤(BDNF)の働きをさらにパワーアップさせてくれる。
カナダの大学の研究では、筋トレをすることで「目標を立てて集中し、誘惑を我慢する力(実行機能)」が高まることも確認されている。テスト勉強や仕事の計画を最後までやり抜く力は、筋トレによっても鍛えられるのだ。
勉強中、どうしてもスマホで動画やSNSを見たくなったとき。その誘惑を我慢するために、その場で「スクワットを15回」やってみよう。太ももの大きな筋肉が刺激されることで誘惑を断ち切って机に向かい直すための意志の力が回復しやすくなる。
リモートワーク中の大人が、どうしても仕事への集中力が切れてネットサーフィンをしたくなったとき。人間工学に基づいたオフィスチェアからスッと立ち上がり、仕事部屋で数分間のスクワットを取り入れる。さらに、人工甘味料の入っていない良質なソイプロテインなどを飲んで筋肉に栄養を補給する。これらは単なる健康オタクの行動ではなく、筋トレによる脳のホルモン分泌を利用し、午後の業務のパフォーマンスを維持するための自己管理なのだ。
③ 脳への血流が増えて、情報を処理する「作業机」が広くなる
数学の応用問題を解いたり、国語の長文を読んだりするとき、脳は「ワーキングメモリ(作業記憶)」という機能を使っている。これは、頭の中にある「情報の作業机」のようなものだ。机が狭いと、計算の途中で数字を忘れたりしてパニックになってしまう。
イリノイ大学の研究では、運動の習慣がある人は、この作業机の広さをコントロールする脳の場所(前頭前野)の働きが良いことが確認されている。心拍数が上がると脳にたくさんの血液と酸素が送られ、情報処理のスピードが物理的に上がるのだ。
図形問題や英語の長文読解など「頭をすごく使う難しい宿題」は、学校から歩いたり自転車を漕いだりして帰宅した直後、まだ心臓が少しドキドキしているタイミングで一番最初に取り組むのがおすすめだ。脳の作業机が一番広くなっているゴールデンタイムだからだ。
大人の仕事でも、パソコンのモニターを2つ並べたようなデスク環境で、膨大なデータを比較したり複雑な資料を作成したりと、脳の作業机をフル活用する場面がある。優秀なビジネスパーソンほど、朝にジムで汗を流したり、一駅手前で電車を降りて歩いたりしてから出社する。これは、複雑な業務に取り組む前に脳の血流量を増やし、ワーキングメモリを拡張しておくための理にかなった方法なのだ。
④ 集中力の薬「ドーパミン」が出て、ストレスが減る
体を動かすと「ドーパミン(やる気や集中力を出す)」や「セロトニン(気持ちを落ち着かせる)」といった物質がバランス良く分泌される。さらに、運動や筋トレはプレッシャーや不安を作り出す「ストレスホルモン」を減らす効果もある。
テストの前日(大人の場合は重要な商談や面接の前日)に、「失敗したらどうしよう」と不安で頭がいっぱいになったとき。部屋でじっと考え込むのは一番の逆効果だ。少し外に出て息が上がるくらいのペースで散歩をするだけで、脳内の神経伝達物質が最適化され、冷静さを取り戻すことができる。
勉強と仕事の効率を最大化する、小さなアクションプラン
「時間がないから運動しない」と考えるのではなく、「限られた時間だからこそ、短い運動や筋トレで脳の調子を良くしてから机に向かう」という視点を持ってみよう。
・通学や通勤で、あえて少し歩く距離を伸ばす
・移動に自転車を活用して心拍数を上げる
・勉強や仕事が行き詰まったら、その場でスクワットを10回する
日々の生活の中で体を動かすその少しの工夫が、君の成績アップを助け、そして大人になっても仕事で成果を出せる強靭な土台を作ってくれるはずだ。
図解

<参考書籍>

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